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重度医療的ケア者の学び 「訪問型の生涯学習支援」

特定非営利活動法人訪問大学おおきなき

訪問型の生涯学習とは?

 近年、医療技術の進歩を背景に、たんの吸引や経管栄養等の医療的ケアが日常的に必要な「医療的ケア児」が増加したことを受け、令和3年9月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行されました。学校においても保護者の付き添いがなくても適切な医療的ケア等支援を受けながら授業を受けることができる児童生徒が増えてきました。

 しかし、学校教育において、自宅に教師を派遣する訪問教育を受けていた生徒の場合、学校卒業後は生活介護事業所等に通うことができない場合が多く、外出することができずに在宅生活を余儀なくされています。このような重度医療的ケア者の学校卒業後の学びや、社会とのつながりを継続する方法として、重度医療的ケア者対象の訪問型生涯学習支援が誕生しました。

 「重度障害者・生涯学習ネットワーク」(後述)に参加する特定非営利活動法人訪問大学おおきなきは、平成26年、特別支援学校卒業予定のYさんの先生から進路相談を受けたことをきっかけに発足しました。Yさんは頻発する発作のため、施設などに通所することが難しい状況があり、ベッドの上で社会との接点がない閉ざされた在宅生活をスタートせざるを得ませんでした。先生は藁をもつかむ気持ちで当時任意団体だった「おおきなき」を訪問し、設立メンバーがその熱意に打たれて活動をスタートしました。

 当記事では、訪問大学おおきなきが行っている訪問学習の様子をお伝えします。

活動の様子

 入学生のFYさんは出生時に人工呼吸器と医療的ケアが必要となりました。発語がなく意思表示が難しいため、日常生活では発声や心拍数、表情などから感情を読み取っています。特別支援学校時代は週に2回、先生が自宅を訪問して授業を行っていました。体育・美術・生活の授業は学校で受けるものと同じ内容に取り組んだり、音楽の授業では学校と自宅をオンラインでつなぎ合奏をしたりしてきました。

(学習中のFYさんの様子)

 訪問大学おおきなきの授業では、パソコンを使った視線入力の練習に初めて取り組んでいます。授業の最初は、固まった手のマッサージから始まります。動きやすくなった掌に、意思表示のための空気圧センサースイッチを握ります。スイッチのセンサー部は先生の手作りです。左目が義眼で、右目の瞼も自発的に閉じることができずに保湿のためにラップをしているため、視線を捉えることは容易ではありませんが、FYさんが一生懸命モニターの画面を見ようとする様子が伝わってきます。この日の授業は視線入力に取り組み始めて2回目でしたが、アプリでバルーンを割ったり、絵を描いたりすることができるようになってきました。

(FYさんが視線入力で描いた線画)

 授業が終わった際、FYさんは盛んに発声を行い、アプリで学習した達成感などを伝えているようでした。授業を継続することで達成感を味わい、少しでも意思表示の手助けになることを願って、今後も月に3回程度のペースで訪問授業を続けていく予定です。

保護者(お母さま)のお話

 「息子が生まれた18年前、入院していた大学病院の新生児集中治療室(NICU)から、人工呼吸器を着けた医療的ケア児が、退院して直接自宅に戻るケースは初めてでした(小児科に移ってから外泊を経験する予定でしたが、重症児を受け入れる部屋が満床で予定が立たず、退院しました。)」

 「当時、在宅医療の支援の指標がなく、親はもちろんのこと、NICUのスタッフの方々さえも初めてのことでした。失敗があってはならないことなので、皆さんと一丸となって、退院するギリギリまで入念に準備を進め、晴れて退院の日を迎えました。」

 「『何かあったらすぐに連絡を。』と念を押され、嬉しさと不安を感じながら退院しましたが、その後入院することもなく、特別支援学校へ入学することができました。」

 「訪問大学おおきなきとのご縁は、小学部5年生の時に学校から配布された訪問大学おおきなきの文化祭のお知らせを拝見して、参加したことがきっかけです。先生方が学生それぞれと向き合い、学生の発表は一人ひとりに合った(得意な、好きな)もので、惜しみない熱意の感じられる取組に感銘を受けました。早々に卒業後の進む道として志願し、今年度入学することができました。」

 「私たち家族は、幸運にもこのような学びの機会があることを知ることができました。このような取組を知らない障害のある方が、新しい学ぶ機会に出会えたら、長年の思いを伝えられたり、生活の向上に繋がったり、いつもの空間が少し違って見えるのではないかと感じています。」

協力体制、ネットワークの意義

 訪問大学おおきなきは「重度障害者・生涯学習ネットワーク」(以下「ネットワーク」という。)に参加しています。ネットワークは、重度医療的ケア者対象の訪問型生涯学習支援を持続可能な制度にすることを目的に、大学・NPO法人・一般社団法人等が参加する「訪問カレッジ」を中心に結成されました。ネットワークには、令和7年2月現在で18の団体が参加しており、『生きることは、学ぶこと。学ぶことは、生きる喜び。生涯にわたって、学び続ける喜びを!』を合言葉に、個別の団体としての活動だけではなく、ネットワークの一員として、①訪問型生涯学習支援における効果的な学習プログラムの開発、②運営・地域連携、③人材育成、④理解啓発を目的に活動を充実させています。ネットワークの発足当時、小さな線香花火のようだった一つ一つの灯が、ネットワークへの参加団体が増えることで、次へと受け継がれてその灯が増えつつあります。

 学びの内容については、「自然科学分野」、「社会科学分野」、「人文科学分野」、「家政学分野」、「文化・芸術分野」、「健康・スポーツ分野」、「言語・コミュニケーション分野」、「自立活動に関する分野」、「伝統文化分野」、「校外学習」など、ネットワークに参加する団体が、受講生の興味・関心に合わせてそれぞれ創意工夫を積み重ね、定期的な連携協議会の開催や成果報告の場を設けて情報の共有を行っています。

活動の課題と今後の展望など

<活動の課題>

 ネットワークが行った調査によれば、訪問カレッジの学生の学びを支援する学習支援員・講師は、退職した特別支援学校教員の他、市民や専門家、大学生が担当していることが明らかになっています。訪問教育は複数人で当たることが理想ですが、人材不足や経費の面から1人での訪問体制も少なくありません。また、学習支援員や講師の高齢化が深刻です。訪問カレッジの先生方は、事務所に集まらずに直接訪問先のご自宅に出向くことが多く、講師同士が一堂に会する機会は少なく、授業や学生の情報交換の方法も課題になっています。

 障害の重い学生とかかわるためには、一人ひとりの障害の理解からコミュニケーション方法、教材・教具や支援機器などについての知識や技術も必要になります。学習支援員や講師を育成するための機会を増やして、障害のある方にかかわることがどれほど魅力的なものなのかを知ってもらうことで、学習支援員や講師を増やしていくことが重要です。

 訪問大学おおきなきは、会員を募りながら会費を中心に寄付金や助成金等で運営しています。しかし、運営資金が潤沢にあるわけではないため、事務所を持たずに活動しています。講師の担い手を常に探している状況ですので、ご興味のある方はぜひ以下のリンクより団体情報をご確認ください。

<今後の展望など(訪問大学おおきなき相澤先生のお話)>

 「訪問大学おおきなきの場合、入学してきた学生の学びを生涯にわたって継続的に支援できるように、授業回数を月3回まで、毎年の受け入れ人数を2~3人までに抑えて10年間活動を維持してきました。」  

 「学生への週1回の授業を保障し、受け入れ人数を更に増やせるような人的・経済的基盤を作っていくこと、障害の重い方の訪問型生涯学習支援の制度の充実のためにも、今後も活動を継続していきます。」 

団体リンク

特定非営利活動法人 訪問大学おおきなきHP(外部リンク)

重度障害者・生涯学習ネットワーク(特定非営利活動法人 地域ケアさぽーと研究所HP内)(外部リンク)

お問合せ先

総合教育政策局 男女共同参画共生社会学習・安全課 障害者学習支援推進室
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