学校から社会への移行期における障害者の多様なマナビ 大学を活用した実践
オープンハートキャンパス@東京科学大学
大学公認サークル aile
東京科学大学(Science Tokyo)の公認サークルaile(エール)が、大学を活用した同年代の若者が交流できる取組として、他大学の学生と共に令和7年8月に「オープンハートキャンパス」を開催しました。
本取組は文部科学省委託団体である「重度障害者・生涯学習ネットワーク」会員、NPO法人ひまわり ProjectTeamと連携したのもので、取組を通して、重度心身障害のある人たちの「大学に行きたい」という夢を叶え、同世代同士がつながり、共に学び合う仲間としてお互いを理解し、友情を育むことを目的としています。
「第2回 オープンハートキャンパス at 東京科学大学」
日時:令和7年8月16日(土)
場所:東京科学大学湯島キャンパス 3号館17階看護演習室
(スケジュール)
14:00~14:15 開会式
14:15~15:00 講義① 物理「シャボン膜でみえる界面物理の世界」
15:00~15:20 休憩
15:20~16:00 講義② ファンカルチャー「推し活」
16:00~16:15 閉会式
(当日の様子)
開会式では、司会者による趣旨説明と、一日のスケジュールの確認、そしてaile代表の岩下さんより開会の挨拶がありました。参加者は一人ずつ名前を呼ばれ、みんなで出席者の確認をしていきました。今回初めて参加する人には、手作りの学生証が手渡され、拍手で迎えられました。

(写真:開会式の様子)
1限目は、東京大学の大学院生が講師を務める「物理『シャボン膜でみえる界面物理の世界』」の授業です。「シャボン玉の膜はなぜ虹色に見えるのか?」「見える虹色にはどういった違いがあるのか?」といった講義や、実際にみんなでシャボン玉を作り、シャボン膜を観察すること等を通じて、界面物理について学びました。シャボン玉が浮かんだ時には歓声があがり、身体を動かすことが難しい参加者も、シャボン玉を視線で追って観察していました。


(写真:講義の様子。自分でシャボン玉を作る人や、参加者同士が一緒に輪っかを持って作ったり、学生が参加者の目の前でシャボン玉を作ったりするなど、さまざまなやり方でシャボン玉を作り観察しました)
2限目は、お茶の水女子大学の学生が講師を務める「ファンカルチャー『推し活(※)』」の授業です。講師が、自らの推し活を例にさまざまな種類や楽しみ方があることを教えた後、推し活の体験として、みんなでペンライトを振りながらアイドルグループのライブ動画を鑑賞しました。推し活グッズとして参加者みんなでオリジナルうちわを作りました。「何色が好き?」「どんなキャラクターが好き?」といった会話が生まれていました。


(写真:講師の推し活を紹介している様子。振り付けを教えてもらいながらライブ鑑賞をしました)
最後はリフレクションとして、今日の感想を全員で共有し、閉会となりました。
「楽しかった」「また参加したい」といった感想があがり、会場にはたくさんの笑顔があふれていました。

(写真:参加者の感想)
※「推し活」とは、自分の好きなアイドル、俳優、アニメキャラ、スポーツ選手などを応援する 活動全般を指します。
| ■第1回目(令和7年5月17日)の様子(東京科学大学ホームページ) https://www.isct.ac.jp/ja/news/2szw5fiha8co |
NPO法人ひまわりProject Team 代表 藤原さんより
NPO法人ひまわりProjectTeamは、重症心身障害児者が地域社会の中で尊厳を持って自立し、多様な人々と関わる機会を広げ、豊かな人生を送れるよう支援活動を行っています。特に生涯学習を重視し、新しい経験や学びを通じて可能性を実感できる場づくりに力を入れています。
今回、オープンハートキャンパスに参加できたことは、単なる交流イベントではなく、重い障害のある当事者にとって“学びの継続”を体現する、極めて重要な機会となりました。
特別支援学校を卒業すると、重症心身障害者が社会と接点を持ち、学び続ける機会は大きく減少します。特に在宅生活を中心とする受講生にとって、大学という高等教育機関で学びを開かれた形(障害の有無に関わらず誰でも参加できる形)で経験し、同年代の学生と交流できることは、貴重な社会参加の機会であり、刺激に満ちた生涯学習の場となります。
ひまわりHomeCollege(ひまわりProjectTeamが取り組む生涯学習活動)の受講生にとっても、「大学で学ぶ」という経験そのものが自己肯定感を高めるきっかけとなり、「自分も学びの場に立てる」という実感と自信につながりました。
さらに、大学生との交流を通して新しい関心や楽しみを見つけ、「地域の一員として迎えられている」と感じられたことも大きな収穫でした。当日を楽しみに、病弱な受講生も万全の体調で臨めるよう調整を重ね、当日は全員でキャンパスの雰囲気を味わいながら、普段以上の集中力と輝く笑顔を見せてくれました。
また、aileには医療系学部の学生が多数参加しており、今回の交流は、将来、医療の道を志す学生にとっても、貴重な学びの場になったと確信しています。臨床実習ではどうしても「支援が必要な患者」としての側面に目が向きがちです。しかし、重い障害のある人たちが元気に活動し、興味を持って他者と関わる姿を知ることは、将来の専門職として重要な視点となります。学生の皆さんには、「患者として」ではなく「同じ若者として」向き合い、ともに楽しむ時間を持ってほしいと考えていました。
重症心身障害児者の生涯学習には、まだ多くの課題がありますが、大学などの高等教育機関が地域に開かれ、参加者全員の学びや経験の場となることは、共生社会の実現に向けた大きな一歩です。支援する側・される側という枠を超えたこの取組が多くの大学等へ広がり、障害の有無にかかわらず、誰もが共に学び合える社会になっていくことを心から願っています。
| ■NPO法人ひまわり ProjectTeam ホームページ https://himawariptsmile.wixsite.com/himawari2010 |
学生サークルaile 代表 岩下さんより
aile は、大学生と重度障害のある同世代が交流できる機会を作りたいという思いから活動を始めたインカレ学生団体です。東京科学大学を中心に都内他大学の学生(看護・医学・工学・理学・福祉・音楽など専攻)が所属しています。
活動を通して、重度障害のある若年層は学習の機会や同世代との交流の場が限られていること、大学進学の機会はかなり狭き門であることがわかりました。「バリアのないキャンパスを作りたい。そこで共に学習し交友を深めたい。」そんな思いを形にしたのが「オープンハートキャンパス」です。
学生が同世代のみんなのために学生の手で作りあげたキャンパスなのです。そのため、もちろん講師も学生であり、講義内容も学生が考えます。
講義では障害のある参加者に配慮し、視覚情報を刺激するコンテンツを用意して、サイエンスコミュニケーションの体験と、社会学として現代の若年層の文化に触れることをねらいとし、学生ならではの距離の近さや自然なやり取りを大切にしながら、共に学べる時間を作りました。
開催にあたっては、東京科学大学の協力で、大学の施設が利用でき、大学病院との緊急時の連携体制を整えることができました。加えて、aileでも小児科医や看護師を配置し、医療的安全面に十分配慮しながら実施しました。
当日は、主催者側の学生も参加者も皆充実した時間が過ごせました。以下は、参加した学生から寄せられた声です。
・純粋に楽しめた
・はじめはどのようにコミュニケーションを取れば良いか不安だったが、眼や手の動き、少しの表情の変化で意思を伝えてくれていることがわかった
・障害のある方とほぼ触れる機会がない。何も知らないのと知っているのは大きく違う
・共通点が多く、心の距離が縮まった
・障害の有無なんて関係ない
こうした交流の積み重ねが、重度障害のある若者にとっても、参加した学生にとっても、新たな学びとつながりを生み出す場になったと感じています。今後は、この取組を単発のイベントで終わらせず、継続的に一緒に学び合える仕組みへと発展させていきたいと考えています。
| ■aile ホームページ https://aile-15.jimdofree.com/about-1/ |
障害者学習支援推進室 担当より
aile代表の岩下さんから、オープンハートキャンパスを開催するにあたり、多くの課題に直面したというお話を伺いました。ですが、諦めることなく、その一つ一つの課題を、関係する方々に相談しながら解決していき、実現させることができたそうです。
今回、視察させていただき、aileやひまわりProjectTeamのみなさんをはじめ、参加している学生や、医療面を見守っておられたクリニックの先生方など、関係するみなさんの、心のこもった取組だと感じました。また、講義内容は座学だけでなく実験や工作など楽しい内容が詰まっており、若者ならではの発想も多く、どうしたら一緒に楽しめるかをみんなで考えた様子がうかがえました。
「教える・教わる」の関係ではなく、ともに同じ時間を過ごし、同じ体験をすることで、お互いの理解が深まり、つながりが生まれる。そういった生涯学習の取組を、大学を会場に学生が主体となって実践している事例として、今回ご紹介いたしました。

